■ 金融翻訳事情 ■
【翻訳者Oさんへのインタビュー後編】
今月は翻訳者Oさんへのインタビュー後半です。スピードアップの秘訣や生活スタイル、今
後の目標など翻訳学習者の皆さん必見の話題満載でお届けします。
◆スピードアップの秘訣
―Oさんは翻訳スピードがずば抜けていらっしゃいますが、スピードアップの秘訣のようなものがあれば教えていただけますか。
先程お話した「対訳君」*を活用しています。今まで翻訳した文章(原文、訳文)をすべて登録していて、単語を検索すると過去にその単語がどのように訳されているかが一目瞭然となるので、それを参考にして訳文を作成することで翻訳時間の短縮ができます。また、レギュラーもののレポートだと、過去の原文と重複している場合があるので、それをチェックすると時間が短縮できることがありますね。日頃からこつこつと単語を登録したり、リサーチをまめにすることが結果的にスピードアップにつながっているような気がします。
*「対訳君」:翻訳に必要な辞書検索、過去の訳文確認、用語集の作成などの作業を効率的に行えるツール。単語や文章を入力して自分でユーザー辞書を作成でき、市販の辞書と併せて串刺し検索もできるため、過去に蓄積したデータを辞書や用例集に照らし合わせながら使用することができる。
―作業面だけでなく、PCや設備の面でスピードアップのために工夫なさっていることはありますか。
特に大掛かりなことはしていません。パソコンは1台のみで、ウインドウを切り替えながら作業しています。PCは2~3年に1回、壊れる前に買い換える程度です。それほど高性能なものではありません。マウスには工夫をしていて、5つボタンのものを使用しています。ショートカットキーを活用することと自分に合ったマウスを使うだけでもずいぶん効率が変わりますよ。
◆バックアップについて
―データのバックアップ方法について伺います。せっかく作成した訳文が消えてしまった…などということを防ぐために、何か対策を講じていらっしゃいますか。
ハードディスクを2重化して、毎日1回自動的に2つのハードディスクに書き込むように設定しています。片方のPCが壊れただけであれば簡単に復旧することができ、安心です。また、手動での保存もまめにしていますね。1文ごとにショートカットキー「Ctrl+S」で保存するよう心がけています。
―機器だけに頼るのではなく、自分の心がけも大切ということですね。
◆生活スタイルについて
―ここまで、どちらかというと堅いお話をしてきましたが、ここからは少しリラックスして、日頃の生活やOさんの性格などについて伺っていきたいと思います。まずは、一日の過ごし方について教えていただきたいのですが。
早朝に入稿するデイリーレポートがない日は8時ごろから仕事を開始します。12時から1時まで昼食休憩をとり、その後翻訳。仕事が多いときは夜中までかかることもありますが、たいていは17時か18時には終えるようにしています。わりと規則正しい生活ですね。夜型ではありません。
―休日は週に何日ぐらいですか。
レギュラー案件の翻訳依頼が少ない水曜と木曜を休日にしています。休日も規則的ですね。
―お休みの日はどのように過ごされていますか。
スポーツクラブで汗を流したり、昼寝をしたりしています。
―お昼寝ですか(笑)。体を動かしたり、くつろいだりと、リフレッシュされているようですね。
翻訳は座り仕事ですし、基本的に一人で行う作業なので、スポーツクラブは体を動かすという面でも、人と接するという面でもリフレッシュになります。
◆学習時間について
―日頃の生活の中で、学習時間はどのようにとっていらっしゃいますか。
特にいつと決めてはいません。空いた時間に金融・経済関係の面白そうな記事か掲載されている雑誌などを読んだり、インターネット記事を閲覧したりしています。文法に関しては、気合を入れて英文法の本を買い、読破しようとしたのですが、結局はじめのほうしか読んでいません(笑)。今は、必要なときに該当箇所を参照するために使用しています。
―生活や仕事のスタイルに合わせた学習がやはり一番長続きするということなのでしょうね。
◆在宅のメリット・デメリット
―在宅で仕事をする上でのメリット・デメリットは何だと思いますか。
メリットは、なんと言っても通勤がないことですね。悪天候や通勤ラッシュにも影響されませんから。また、一日のタイムスケジュールを自分で好きに割り振ることができるのも魅力です。デメリットは…そうですねえ、これといって思い浮かばないのですが強いてあげるなら、自由であるがゆえ自己管理をするのが難しいことでしょうか。
―自己管理が難しいということですが、これまで、締め切りに遅れそうになってあせった経験はありますか。
もちろんあります。掛け持ちでやっていた時代は特にありました。徹夜をするようなことも度々でしたね。
―魅力的なお仕事である反面、自己管理や納期の面など非常に厳しい世界なのですね。
◆性格・得意分野について
―翻訳者に向いているのは、どんな性格の方だと思われますか。また、ご自身はどんな性格だと思われますか。
こつこつ型の人が向いているのではないでしょうか。調べ物や表現の工夫などかなり根気を要する仕事ですから。私自身、一人でこつこつ、誰ともしゃべらずに作業するのが苦にならない性格だと思いますよ。
―様々な翻訳案件の中で、得意、不得意分野というのはありますか。
あります。得意なものとしては、レギュラー案件としていつも取り組んでいるマクロ経済レポートでしょうか。不得意分野は、あまりに専門的な内容のものや、日本語の表現を工夫するのが難しいアニュアルレポート、それと契約書ですね。
◆今後の目標と翻訳学習者への一言
―翻訳者としての今後の目標を教えてください。
基本的なことかもしれませんが、ケアレスミスをなくすことと、先程お話した「いかにも英語的な表現」をより適切に訳すことができるようになることです。
―では最後に、翻訳者を目指す皆さんにアドバイスをお願いします。
翻訳には、英語力、日本語力、リサーチ力、知識の吸収力、理解力など総合的な能力が必要ですが、翻訳を仕事にする上で大切なのは、「言葉に対していかに興味を持っているか」ではないかと思います。
例えば、「回復する」という言葉一つとっても、好転する、改善する、復調する、持ち直す、盛り返す、上向く、蘇生する、息を吹き返す、など、いろいろな言い方が考えられます。その中から文脈や文章の流れに応じて最もふさわしい表現を選ばなければなりません。もちろんこれは訳語の選択に限らず、主語を変えたらどうか、名詞を動詞に変えたらどうか、言葉の順番を入れ替えたらどうか、など、試行錯誤を重ねながら訳文を作っていくわけです。このような作業を面白いと感じなければ、翻訳を仕事にするのは厳しいでしょう。逆に、こうして最適な表現を見つけていくプロセスこそが翻訳の醍醐味だと思います。
翻訳を学習している方へのアドバイスとしては、常に日本語表現に関心を抱き、金融・経済関係に限らず、また翻訳か否かを問わず、柔らかいものから硬いものまで様々な文章に触れることをお勧めします。それでは、皆様のご健闘をお祈りいたします。
―ご協力いただきまして誠にありがとうございます。日頃気になってはいるけれどなかなか聞く機会のなかったお話をたくさんうかがうことができて、非常に有意義でした。今後ともよろしくお願いいたします。
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2回にわたるインタビュー企画、いかがでしたでしょうか。今回の内容を大いに参考にしながら、翻訳学習をがんばっていきましょう!