■ 金融翻訳事情 ■
【翻訳者Oさんへのインタビュー前編】
今月号と来月号は翻訳者のOさんへのインタビュー特集です。OさんはITのエンジニア、プログラマーなどを経て、global2jの専属翻訳者として第一線で活躍中。訳文のクオリティの高さと翻訳スピードは翻訳者の中でもトップクラスです。今月号では、金融翻訳者になったきっかけや学習方法などについてお話を伺いたいと思います。
◆翻訳を始めたきっかけ
―この度はインタビューにご協力いただき、ありがとうございます。まずは、Oさんが翻訳者になろうと思われた経緯について伺えますか。
元々はITのエンジニアやプログラマーの仕事をしていました。仕事で使うマニュアルはすべて英語ですから、当時から英文を読むことには慣れていましたね。ある時、パソコンのマニュアル(ユーザーガイド)の翻訳を翻訳会社に依頼することがあり、私は納品された訳文の最終確認作業を担当しました。その訳文を読んでいるうちに「私にもできそうだ」と感じたのが、翻訳者を志したきっかけです。
―では、元々金融関係の知識をお持ちだったわけではないのですね。
はい。当初はIT関係の翻訳をやっていくつもりで学習を開始しました。そんな中、腕試しのつもりで受けたglobal2jのトライアルに偶然合格したんです。それが金融翻訳に携わるきっかけでした。
―ITと金融・経済ではかなり専門が違うかと思うのですが、トライアルを受ける前に金融知識について特別に学習されたのですか。
いいえ、トライアル課題を見てわからないところをインターネットや書籍で調べながら訳文を作成しました。今はインターネットがあるので、きちんとリサーチをすれば知識の面を補うことはそれほど難しくはないのかもしれませんね。
―global2jの専属になる前は、他のお仕事もされていたのですか。
はい。何社かトライアルを受けて他の会社にも登録し、しばらくIT関連の翻訳と並行していたのですが、次第にスケジュール調整などに困難が生じはじめてきました。そんな時global2jから専属契約のお話をいただいて、今に至っています。
◆学習の方法
―初めてのトライアルに合格されるまで、どのような学習をしていらしたのですか。
通信講座です。しばらくは会社勤めをしながら受講していましたが、受講中に会社を退職し、さらに学習を深めました。初めてトライアルに合格したのは会社を辞めてから約半年後です。
―学習を開始されてからトライアルに合格するまでは合計何年ほどかかりましたか。
入門コースから換算すると約2年です。現在、金融翻訳者としてのキャリアは6年ということになります。
―金融翻訳の学習を開始なさってから現在まで続けていることがあれば伺いたいのですが。
日経新聞を毎日読むことです。特に国際面を中心に読み、その中で使えそうな表現があったら、「対訳君」*という辞書ツールに取り込んでいます。あまり手を広げすぎていろんな 書籍を読もうとすると、続かなくなってしまいかねません。毎日続けられることが肝心な のではないでしょうか。また、自分で翻訳した案件の完成版がフィードバックされたら、 「対訳君」に取り込みながら読んでいくようにしています。誤訳やミスをした箇所については特に気をつけて復習していますね。
*「対訳君」:翻訳に必要な辞書検索、過去の訳文確認、用語集の作成などの作業を効率的に行えるツール。単語や文章を入力して自分でユーザー辞書を作成でき、市販の辞書と併せて串刺し検索もできるため、過去に蓄積したデータを辞書や用例集に照らし合わせながら使用することができる。
―どのようなミスや誤訳が多いですか。
原文が「いかにも英語的な表現」であったりすると、そこで引っかかってしまいミスをすることが多くなります。
―学習を続けていかれる中で、成長したな、と感じられるのはどんな点ですか。
やはり、金融・経済関連の知識です。翻訳案件に取り組む中で調べながら覚えた知識なので、実践的だと思います。
◆リサーチについて
―調べながらの翻訳作業ということになると、リサーチ力が問われると思うのですが、普段どのような方法でリサーチをされていますか。
特別なことはしていません。基本的な作業をこつこつとやっています。具体的には、わからない単語をインターネットの検索エンジンにかけ、日本語のページがあればそれを参考にし、なければ英語のサイトを見てその単語がどのような使われ方をしているかを見る、というようなものです。
―リサーチに近道はないということでしょうか。地道な作業が必要になるのですね。
◆翻訳作業の進め方
―全体的な翻訳作業の進め方について伺えますか。
はじめに直訳調になってもいいので前からざっと訳していきます。次にもう少し時間をかけて調べながらじっくり訳し、いったん仕上げてから、原文と照らし合わせてもう一度見直しをします。最後に、今度は少し時間を置いてから原文と照らし合わせずに見直して、日本語として不自然な箇所がないかをチェックしています。昔は初めに黙読していましたが、読む時間がもったいないと思うようになり、読みながら訳文を入力していくスタイルに変えました。
―作業の際、辞書は利用されますか。
見たことがあるような単語であっても辞書はまめに引いています。はじめにざっと訳す段階ではあまり見ないこともありますが2回目以降の見直しの段階では、どのような言い回しにするかを検討するため、辞書と対訳君の両方を参照してよりよい表現を探すようにしていますね。
―よく利用される辞書はどのようなものですか。
一般的な英和では「ランダムハウス」、「リーダーズ」、「リーダーズプラス」、「ジーニアス」、英英では「COBUILD」、専門的な用語を調べるときには「ビジネス・法律16万語」などで、すべてCD-ROM版です。英辞朗も活用しています。詳細についてはglobal2jのブログにも掲載していますので是非参考にしてください。
―様々な辞書を目的に応じて使い分けていらっしゃるのですね。より適切な訳語にたどり着くためには、リサーチや日頃の学習、辞書の活用など地道な努力が不可欠のようです。来月号では、スピードアップの秘訣や生活スタイル、今後の目標など、さらに気になる話題に迫ってみたいと思います。