■ 今月のキーワード ■
【accommodative】 緩和的な
金融政策や金融環境についてよく使われる表現です。反対語はtight、restrictiveなど。
(例文)
The central bank is likely to maintain the current accommodative monetary conditions for the time being.
(訳例)
中央銀行は現在の緩和的な金融環境を当面維持するとみられる。
■ 金融翻訳事情 ■
【「引き出し」を増やす】
先日、レギュラー案件である欧州経済関連のレポート中に、非常に複雑な経済理論が登場しました。
計量経済学に関連する内容なのですが、用語についてはもちろんのこと、普段のレポートではあまり目にしないような複雑な数式が「これでもか」と言わんばかりに並んでいたのです。経済の専門書に出てくるような内容のものでした。弊社の登録翻訳者の方は、経済・金融翻訳のスペシャリストではありますが、様々なバックグラウンドをお持ちであり、必ずしも「経済学一本」の道を歩んでこられたというわけではありません。依頼する時に多少の緊張感がよぎりました。内容が複雑だからといって、納期が延長されるわけではないからです。しかし納品された訳文はこちらの心配をよそに、隅々までリサーチが行き届いたすばらしいものでした。なぜこのようなことが可能だったのでしょう。たまたまその方が計量経済学について明るい方だったからでしょうか。実はそうではありません。翻訳者としての「引き出し」が豊富な方だったためなのです。
ここで言う「引き出し」とは、わからない用語をリサーチするために必要な知識の幅のことです。非常に専門的な内容の文章に出会ったとき、きちんとした訳文に仕上げられるかどうかは、ある一定の分野に関する知識の深さというよりもむしろ、この「引き出し」をいかに多く持っているかが重要になってきます。誰しもすべての分野について深い知識を持つことには限界があります。特にめまぐるしく変わる金融・経済分野については、これまで見たこともない言葉に触れる機会が必ずといってよいほどあるでしょう。インターネットが発達した現代、「この単語はこの分野に関するものかな」という目星をつけることができれば、それをきっかけとしたリサーチによってかなり深い知識を得ることができるのです。
その「引き出し」をより豊富にするには、さまざまな分野に関する好奇心が不可欠でしょう。日常生活において少しでも疑問に思ったことは分野に関係なくとりあえず調べてみる、新聞は国際経済面だけでなく幅広い記事を読むなどといった努力の積み重ねによって徐々に点と点がつながっていき、幅広い知識の「ネットワーク」が構築されるのではないでしょうか。