■ 特別企画「金融・経済翻訳者の実像」■
前回4月号から引き続き、今月号も特別企画として「金融・経済翻訳者の実像」をお送りします。今回は翻訳者のライフスタイルや実際の仕事量などについてご紹介します。
【第2回】翻訳者のライフスタイルと仕事
一日の流れ
プロとして独立後、翻訳者はいったいどのような一日を送っているのでしょうか。アンケート調査結果を見てみると、「レギュラーの仕事に合わせて午前8時頃から仕事を始める日もある」、「納期と分量によっては夕食後も仕事を続けることがある」、「場合によっ
ては深夜まで仕事する」など、人によってさまざまです。中には、無理をして体調を崩してしまわないよう「仕事の合間にスポーツジムに通ってリフレッシュする」、「遅くとも午前1時までには就寝する」など、体調管理に気を配る人もいました。フリーランスの場
合、一日のスケジュールは日によって異なるケースがほとんどですが、受注した仕事次第で時間を有効に利用し、メリハリをつけるのがポイントのようです。
実際の仕事量
一日の労働時間を7~8時間とした場合の翻訳可能な分量について聞いてみたころ、次のような結果が出ました。
1位:1,500~2,000文字(69%)
2位:2,000~2,500文字(23%)
3位:2,500~3,000文字(8%)
*翻訳後の日本語文字数。
トップクラスの翻訳者になると「5,000文字くらい。ただし、専門性の高いものになるとこれより少なくなる」とのことです。
また、実務で通用するためには最低でも一日どのくらいの分量をこなす必要があるかという質問については次のような回答が得られました。
1位:3,500~4,000文字(57%)
2位:3,000~3,500文字(29%)
3位:2,500~3,000文字(14%)
「理想は4,000文字くらい。ただし、今の自分の実力ではその半分が限界」、「4,000字程度はこなさないとプロとして通用しないのでは」、「最低3,000文字はこなさなければ、翻訳だけで食べていくのはむずかしい」など、人によって違いますが、クオリティを維持しつつ翻訳のスピードを上げたいというのがプロとしての本音でしょう。
翻訳のスピード
それでは、クオリティを保ちつつ翻訳のスピードを上げるために翻訳者は日頃からどのような努力をしているのでしょうか。プロともなれば、限られた時間で完成度の高い翻訳を提供しなければなりません。そのために「辞書にも載っていない専門用語の正確な訳語を
翻訳会社からもらった完成版から集め、用語集にまとめておく」、「フィードバックされた完成版と自分の訳文を比較し、改善すべき部分を訳文に反映させ、入念に見直す」など、翻訳者は受注した仕事から学んだことを必ず次に生かしているようです。締め切りの
ある仕事である以上、必要な知識を常に蓄積し、すぐに活用できるよう準備しておくことが、翻訳のスピードを上げる秘訣であるのは間違いありません。
金融翻訳業界と翻訳者
なぜ、金融・経済翻訳者は翻訳のスピードを上げることを重要ポイントの一つにしているのでしょうか。それは、金融翻訳業界特有の事情にあると言えます。当社の主な顧客である金融機関は刻々と変化する世界のマーケット情報を少しでも早く提供するため、翻訳会
社に対し短納期でクオリティの高い翻訳を要求する傾向が強まっています。例えば、最近では入稿から納品まで2~3時間程度の案件は決して珍しくありません。また、レポート配信時間の都合上、早朝や深夜の作業が必要になってくるプロジェクトなど、時間的に厳しいものも目立ってきています。したがって、金融・経済翻訳者として生き残っていくためには翻訳のスピードを上げることが必須であり、また仕事に合わせて一日の作業スケジュールを立てるなど、顧客の要望にできるかぎり柔軟に対応していくことが重要になっ
てくると言えるでしょう。
次回は、翻訳者として活躍するために必要なこと、翻訳者として働く上での醍醐味あるいは苦労、また今後の目標などについてご紹介します。