■ 特別企画「金融・経済翻訳者の実像」■
4月号から2回にわたり特別企画「金融・経済翻訳者の実像」として、当社の登録翻訳者を対象に実施したアンケート調査の結果を紹介してきましたが、それも今回で最終回を迎えました。今号ではフリーランスで働くことのメリットあるいはデメリット、翻訳者として活躍し続けるために必要なこと、またそれぞれの今後の目標などについて取り上げていきます。
【第3回】金融・経済翻訳者として活躍するためには
フリーランスとして働くことのメリットとデメリット
当社の登録翻訳者に、フリーランスとして働く上でのメリットとデメリットについて聞いてみたところ、次のような回答が得られました。
メリット:
1位 「人間関係に煩わされない」
2位 「時間的な自由がある」
3位 「努力すれば結果はついてくる」
デメリット:
1位 「収入が不安定」
2位 「すべてが自己責任」
3位 「仕事の悩みを相談できる人がいない」
メリットの第1位「人間関係に煩わされない」という回答に見られるように、フリーランスという就業形態の最大のメリットはやはり、周囲の環境に影響を受けることなく自分のペースで仕事に集中できるところにあるようです。また、「スケジュールや仕事の進め方など、全てを自分で管理して主体的に計画できる」、「最新の金融市場動向や経済情勢など、仕事を通じて常に新しいことを学んでいける」といった声も聞かれました。一方、デメリットについて聞いてみると、「収入が不安定」という回答が圧倒的多数を占めました。翻訳会社一社と専属契約を結んでいる翻訳者やレギュラー案件を多数担当する優秀な翻訳者ならまだしも、中級レベルの翻訳者に一定の分量の仕事がコンスタントに入ってくるとは限らないのが現実です。報酬が基本的に出来高制である以上、仕事が減ればすぐに収入に響きます。「自分や家族が病気になると仕事ができなくなる」、「有給休暇がないので、休んだ分だけ収入が減る」など、会社員とは違う悩みや苦労があるようです。
では、優れた翻訳者として活躍し続けるためには何が必要なのでしょうか。アンケート調査結果を見てみると、「とにかく翻訳が好きであること」、「調べ物が苦にならないこと」など、翻訳という仕事に対する熱意を重視する回答が目立ちました。また、「依頼主の要望にできる限り応えること」、「ビジネスマナーをしっかり守ること」など、顧客対応に細心の注意を払うことの必要性を指摘する翻訳者も少なくありませんでした。翻訳のクオリティさえ高ければ黙っていても仕事が入ってくるとは限りません。翻訳を依頼する側として最近感じているのは、優秀な翻訳者は翻訳力が高いだけではなく、翻訳依頼やフィードバックのメールに対する返信が迅速であり、かつ誤訳やケアレスミスを指摘されても謙虚に受け止め、次につなげるなど、素直な性格の方が多いということです。逆に、顧客対応がいまひとつの方は翻訳力の面でも特別優秀というほどではなく、登録時に一定の翻訳力があってもその後伸び悩む傾向にあるようです。
今後の目標
最後に、今後の目標について聞いてみたところ、興味深い結果が出ました。現役のプロであれば、「本をまるごと一冊訳せるまでにレベルアップしたい」などといった大きな目標がたくさん出てくるものと思っていましたが、実際には「誤訳をなくし、翻訳の質を高め
る」という回答が大半を占めました。トップクラスの翻訳者でも、目先の目標を一つずつ着実に達成することを重視しているようです。翻訳歴別に見てみると、フリーランス2~3年目の方々は「不慣れな内容のものでも、質の高い訳文を提供する」、独立して間もない方々は「今は自分のスタイルを確立するために模索しているところ。まずは、いただいた仕事をきちんとこなし、経験を積んでいくこと」、「金融翻訳を専業にできるよう、これからさらに頑張っていきたい」、と語ってくれました。
真に優れた翻訳者とは
最近の金融翻訳業界は納期とクオリティの面で非常に厳しくなってきています。こうしたことからも、フリーランスの翻訳業は、単に「英語力には自信がある」、「金融機関での実務経験がある」というだけで続けられるほど甘い仕事ではありません。今後、金融・経
済翻訳者として活躍していくためには、そうした厳しい状況に対応でき、フリーランスのデメリットを受け入れた上でこの仕事をやり遂げたいという、並大抵ではない意志の強さが必要です。そういった意味で決して楽ではありませんが、最終的には「翻訳が好き」と
いう気持ちこそ、翻訳業を続けていく上で最も大切と言えるようです。